推しを語ることは人生を語ること:『「好き」を言語化する技術』書評

観劇

何かにとても感動したとき、人はそれを語りたくなります。
感動で胸がいっぱいになり、「この気持ちを誰かと分かち合いたい」という思いがあふれてきます。

なのに、いざ語ろうとすると、「感動した」「よかった」「面白かった」など、ありきたりな言葉しか出てこない…
そんなもどかしい思いをしたことはありませんか?

一度でもそんな思いをしたことのあるあなたへ、この本をおすすめします。

三宅 香帆 『「好き」を言語化する技術』(2024年7月、ディスカヴァー携書)

この本では、アイドルと宝塚をこよなく愛する著者:三宅香帆さんが、「好きな存在=推し」を語る方法を解説します。
インターネット上を無数の言葉が飛び交う現代において、「自分の言葉で語る」ことの大切さと、その方法がわかりやすく説明されています。
推しを語ることで、自分の人生にもいい影響がもたらされると三宅さんは説きます。

「推し」がいる人全てにおすすめしたい1冊です。
読めば、あなたの推し活、ひいてはあなたの人生がより充実すること間違いなしです!

以下、本書を読んでの感想を記載します。
引用箇所のページ数は、すべて本書『「好き」を言語化する技術』のページ数です。

手に取ったきっかけ

はじめに、私がこの本を手に取ったきっかけをお話しします。

私は観劇が好きで、平均して月に1~2回ほど劇団四季の舞台を観に行きます。
あるとき、ふと、「舞台の感動を文字にして残したい」という思いが芽生え、以来観劇後には必ず感想をノートにまとめるようにしています。

回数を重ねるにつれて、すらすら書けるときとそうでないときがあることに気づきました。
うまく書けないときは、「感動した」「よかった」というありきたりな言葉しか出てきません。
舞台にはちゃんと心を動かされているのに、です。
人に見せるものでなくても、ありきたりな言葉ばかりが並ぶ感想文は書いていても読んでいても楽しくありません。
自分には語彙力がないのかな、と落ち込むこともありました。

そんなときに、書店で見つけたのがこの本です。

著者について

著者の三宅香帆さんは、書評家の仕事をされています。
つまり、本の感想を書くプロです。
そして、三宅さん自身にもアイドルや宝塚という「推し」がいて、プライベートでは推し活を楽しんでいるそうです。

感想を書くプロの視点と、推しから元気をもらっているオタクの視点、その両方を持つのが三宅さんです。

心に残った点

自分の言葉を持つことの大切さ

著者が本書で繰り返し述べているのは、

自分の言葉を持つことは大切だ

ということです。

自分の言葉を作る習慣をつけないと、

簡単に他人の言葉に影響されてしまい、いつの間にか自分の感想が他人の感想に置き換えられてしまい、ひいては洗脳のされやすさにつながってしまう

と著者は警鐘を鳴らします。

多くの人が、「自分の言葉で話すことは大切だ」と思っていることでしょう。
でも、なぜ自分の言葉で話すのが大切なのか、考えたことはあるでしょうか。

自分だけの感想を大切にするために、自分の言葉をきちんと持つ。
他人の言葉が否応なしに目に入ってくる現代において、とても大切なことではないでしょうか。

他人の感想を見ない

では、自分の言葉で感想を書くために必要なことはなんなのか。

それは、

ずばり、「他人の感想を見ないこと」です。

P. 65

と著者は言います。

自分の感想ができ上がっていないのに他人の感想を見てしまうと、もともと考えていたことを見失ってしまうというのがその理由です。

これ、心当たりがある人は多いのではないでしょうか。

私も、演劇の感想を投稿しようとSNSを開いたとき、自分が書こうとしているよりずっと詳細でオリジナリティあふれる感想を目にしてしまい、書く気をなくしてしまったことがあります。
そのときに投稿しようとしていた感想は闇に葬られてしまったわけで、もったいないことをしたなと思います。

これからは、「自分の感想を書いてから他の人の感想を見る」ことを徹底しようと誓いました。

ちなみに、著者は、

他人の言葉を読むことによって自分の感想が生まれる場合もある

P. 68

とも述べており、他人の感想を見ること自体を否定しているわけではありません。

確かに、他人の感想を読むのって面白いですよね。
自分と似た感想が書かれていると共感を覚えますし、自分は思いもしなかったことが書かれていると新たな気づきを得ることができます。

でも、それは「自分の感想をいったん書き終えてからでいい(P. 68)」と著者は言います。

自分の言葉を作るプロセス

感想を言語化するプロセスとして、以下の3つが挙げられています。

①よかった箇所の具体例を挙げる
②感情を言語化する
③忘れないようにメモをする

P. 74

他人の感想を見る前に、以上の3つのプロセスを踏むことが大切だと著者は言います。

著者によると、推しを語るのに必要なのは、語彙力ではなく「細分化」する力です。
①で挙げる具体例が細かいほど、オリジナルな感想になりやすいそうです。

つまり、

「どこが」「どう良かったのか」を言えれば、自分だけの感想を書くことができる

とも言えると思います。

確かに、私が他人の感想を読んでいて面白いと思うときは、細かい点について詳細に書かれているときです。
「どこに着目するか」「そこからどう解釈するか」ということに、その人の個性が表れるのです。

自分が感想を書くときを振り返っても、うまく書き進められないときは、たいてい作品全体について漠然と書こうとしているときでした。

心にひっかかったことを掘り下げるだけなら、特別な才能や技術がなくてもできます。
そして、推しについて深く考えることって、きっと面白いはずです。

この方法を実践すれば、感想を書くことまで含めて観劇を楽しめそうだと思い、次の観劇の感想を書くのが楽しみになりました(笑)。

場面に応じた推し語りのコツ:おしゃべり、SNS、文章

著者は、推しのことをうまく伝えるコツを、
「話すとき」「SNSに投稿するとき」「まとまった文章を書くとき」
の3つの場面に分けて説明しています。
詳細は、本書を読んでくださいね。

紹介されている内容は、推し語りだけでなく、普段のコミュニケーションにも応用できることだと思います。

例えば、SNSで他人とは違う意見を述べたいときのコツとして、

受け取る側も、自分の意見をわかってくれたうえで、それでもなお違う意見を述べているんだ、と理解できれば、案外聞いてもらえるものです。

P.151

と著者は言います。
このテクニックは、例えば友人に対して反対意見を伝えたいときにも使えると思います。

推しについて語る訓練をすれば、日常のコミュニケーションにもいい影響がもたらされそうですね。

こんな人におすすめ

この本は、

推しがいる人

すべてにおすすめしたいです。

著者は、「推し=好きな存在について語ることは、自分の人生を肯定することだ」といった意味のことを繰り返し主張しています。

だから、推しがいる人は、ただそれを受動的に楽しむだけではもったいないと思います。
推しから受け取るだけでは、「推し→自分」の一方通行の関係しかありません。
でも、推しについて言葉にすることで、自分の中で推しに対するアクションを起こすことができ、「自分→推し」という関係も生み出すことができます。
それってとても素敵なことではないでしょうか。

たくさん推しを語って、推し活、そしてその延長線上にある自分の人生を、思いっきり楽しみたいです。

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